幼児の終わり

朝、寝室からリビングに降りると、娘の歯が抜けたと報告があった。

前日からぐらぐらしてるからもう取れそうだよ、とそわそわしていて、寝ている間に抜けたらしい。
なんだかそれを見てすごく感動してしまった自分がいた。
人が赤ん坊から幼児、そして児童、青年と成長していくその過程の中で、そのことがはっきりと幼児という期間の終わりの始まりを予感しているような気がした。

近頃、やたらと大きく感じる。
この一年で、会話の内容や物事の伝え方も上手くなり、ひらがななら手紙をかけるほど文字も書けるようになった。
気がついたらだいぶ背筋がしゃんとしている。
抱っこしてと言われても、抱えた重さに驚いて、これはもうすぐできなくなるなと思う。
隣に寝返りしかできない赤ん坊がいるせいで、5年という歳月の成長を余計に感じることができる。
この前入園式をしたと思っていたのに、幼稚園もあっという間に年長クラスだ。
いつも行っている銭湯の男湯にも、あと3年もすれば一緒に入れなくなるのだろう。
ぱぱだいすきと、あと何回似顔絵を照れずに書いてくれるだろうか。
発表会で見たお遊戯の3匹のくまは、寝かしつけのときによく読んでいた本だ。ちゃんとできていた。

これからもっと、その幼児から子供へ変わっていく瞬間が沢山訪れるだろう。
きっとその時間はもう短いから、僕の目が届かなくなるまで、その一つ一つをしっかりと見守っていたい。
うっすらと生えてきた永久歯を、妖精さんがくれたんだよと、嬉しそうに見せてくれる。
そんな2月のある朝の出来事。

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佐藤可士和展

1998年
当時中学三年生、受験生だった僕は吾妻橋にあった塾に行く前に千束商店街にあったCDショップに通っていた。
高校受験の時唯一の楽しみは音楽と夜中のニッポン放送だけ。友達に教えてもらったその店はCDを買うと、販促用のポスターをつけてくれるのが嬉しくて用もないのに行くこともあった。
その店の棚で見つけた”ATTACK FROM THE FAR EAST”という2本のライブビデオ。
ヘンテコなイラストが描いてあるのが一本と緑色の背景にモノクロの3人の男が写っているパッケージがもう一本。全て英語で書かれていて、曲名もわからないけど、トイズファクトリーからリリースされていると言うことはおそらく日本人なのだろう。ただ何故かわからないけどそのジャケットにすごく惹かれてその店に通うたびに何度もそのビデオテープを見て、受験が終わったらこれを絶対に見るんだって思っては棚に戻していた。

そうして受験が終わり、貯めていたお小遣いでジャケ買いということを初めてしたのがそのライブビデオだった。興奮しながら親の部屋にあったブラウン管のTVの前に座り、英語で歌う3人の日本人の映像を見て、TVの音楽とは違う本物に触れたような気がした。それが僕とHi-STANDARDとの出会いであり、佐藤可士和さんの作品に初めて触れた瞬間だ。MAKING THE ROADが出る3ヶ月前の話。

デザインに興味が湧いてきた大学生の頃、六本木のTSUTAYAで知ったふりをしてデザイン本やアートブックや写真集を読みに行くということを時々していた。ある時何かの本を読んでいると、その場所のロゴを作った人と、ハイスタンダードのANGRY FISTのジャケット、そしてあのビデオのジャケットをデザインした人が同じ人だということを知り、雷が走ったように運命的なものを感じた。
そこからユニクロを始め、セブンイレブンや楽天と、気づけば生活のすぐそばに可士和さんのデザインがあるようになるには時間はかからなかったけど、自分中ではずっとハイスタのセカンドアルバムをデザインした人というキーワードで何かが繋がっているような気がしていた。

一度だけ楽天の中途採用サイトを担当させてもらった時、取材に同席させてもらってお会いしたことがあるけど、オーラが凄くて声もかけられなかった。ただカバンの中には日本に優先順位という概念を広めたと思っている著書、「佐藤可士和の超整理術」を忍ばせておいた。
新美術館の広い空間、数々の有名な広告や巨大なVIの展示に紛れてケンくんのサイン付きのANGLY FISTのレコードが置かれているのを見た僕は、中三の自分と今が繋がった気がして涙が出そうになった。
同じものは全て所有してるし、何度も見たものではあるのだけど、あの時の気持ちが変わらないでそこにいたようで、そんな色々を思い出させてくれた時間でした。
展示の感想など何一つ書いてないけど、それでいいと思っています。

佐藤可士和展

02/14/2021

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New bycycle ballad

自転車を買い替えた。
9年も乗っていた先代のMARINのCORTE MADERAというモデルは、奥さんの先輩の元カレが使っていたものを譲り受けたものだった。数回乗っただけで綺麗な状態で、デザイン的には太いフレームがあまり気に入ってなかったのだけど、当時は食うに困るほどだったので、見た目は二の次で他の選択肢はなかったのだ。高円寺のカフェで譲り受け、そのまま豪徳寺の自宅まで漕いで帰った。2011年の話。

以来渋谷や新宿、銀座、八丁堀など年間約200日×9年間、僕の自転車通勤の日々を支えてくれた。おそらく数万キロは走ってきた。タイヤも2年に一回は変えてたから、前輪後輪両方5回は変えたと思う。防犯登録を変えるのが面倒で夜中に警察に止められると、誰から買ったというハイパーめんどくさい説明を何度もしなければならず、30分以上拘束されて警察の検索機能の遅さに何度もキレた記憶がある。

年末に妊婦の為の区の給付金が出たので、奥さんが電動自転車に買い替えてるのを見てたら、自分も欲しくなってしまったので買い換えることに。
クラシカルなピストに近い細いフレームでギアは最小限、ストレートハンドルという条件で、TOKYO BIKEなど、色々な検討を重ねた結果、FUJIのBALLADという車種にたどり着く。音楽を連想させるモデル名も気に入った。
コロナ禍で自転車の需要が急増しているので、色々な店に行ってみても在庫がなく、結局ネットを経由してワイズロードで在庫を確保してもらい入荷まで3週間ばかり待った。カラーはもっと鮮やかな水色やパープルとかがベストだったのだけど、まぁしょうがない。

納車の日を迎え取りに行くと、都市を走るために作られたバイクということだけあり、軽やかで加速もスムーズで最高の乗り心地。
後々少しづつパーツはカスタムしていくとして、一日中ずっと漕いでいたいほど気に入ってしまった。
隅田川のを越える橋を渡る時、キラキラと光る水面がすごく祝福してくれるように思えた。
春がもう近い。

上野の路地 また回すペダル

2021.02.06

カテゴリー: Days

Music of 2020

5年ほど前にワードプレスへ慣れるためにテンプレをこねくり回して開設し、誰に見せるわけでもない雑感をただ綴っていた当ブログですが、
昨年まとまった時間を使って新婚旅行の記録旅の記録などを書いてました。

デザイナーたるもの何も語らず実績をゴリゴリポストしていくのが一番かっこいいのは知っているのですが、そもそもそんな天才じゃない。
結局「超絶文系リアリスト人間」の自分は、煮詰まるとインスタに長々と長文を書いてしまうので、どこかで定期的に頭の中身を解放していかないといけないのも再確認できた昨年でした。

以上を踏まえて、今年から立ち位置を変えてナレッジや旅行記などもジャンルレスに色々と書いていこうかと思います。
会社のblogで書けよっていう内容もあるかもしれませんが、会社のblogは他のアプローチをして行きたい。
なんでnoteじゃないの?って思う人もいるかもしれませんが、色々理由はありますが、要するに

人と同じデザインなんて嫌だ

これです。
課金コンテンツにするつもりもない。
読まれてるとか読まれてないとか収益とか関係なく、書きたい事は溜まっているので、ゴリゴリと書いていければと思います。
インスタの転載だったり、その逆もあるかもしれませんが、そこはご容赦してくださいませ。

まずは昨年2020年にお世話になった10枚を。
年間ベストというやつです。

  • 4 / TOKYO HEALTH CLUB
  • Everything Else Has Gone Wrong / Bombay Bicycle Club
  • New Abnormal / The Strokes
  • 狂(KLUE) / GEZAN
  • Figure / Into It. Over It.
  • Anyways / 環ROY
  • Lives By The Sea / Gotch
  • Between the Black and Gray / MONOEYES
  • The Avalanche / Owen
  • HARVEST / LOSTAGE
4 / TOKYO HEALTH CLUB

THCの4年ぶりの4枚目。緊急事態宣言発令の次期と被っていたので、嫌でもあの空気を思い出してしまいます。
世の中のムードに呼応してBandcampで先行公開したり、ボツになったトラックを別のアルバムとしてリリースしたり、フレキシブルな動きもさすが。
リピートで客演している塩塚モエカは、のちにASIAN-KUNFU GENERATIONや蓮沼フィルにフィーチャリングされたり、大ブレイクでしたね。
その辺りの先見の明もさすがといったところです。
ジャッケットをJAGDAの新賞展で見た時はとても感慨深かった。おめでとうございます。
はじまりの王将でまた集合

Everything Else Has Gone Wrong / Bombay Bicycle Club


活動休止期間を得て3年ぶりにリリースされたBBCの新作。
やっぱりメロディ、フレーズ、声、ビートどれを取っても好みすぎるのですごく良かった。
いつの日かまた見たいバンドの一つ。

New Abnormal / The Strokes


久々の新作は相変わらずのコンプ効きまくり、シンセ・打ち込み多め、でもジュリアンが歌うと全部STROKESになってしまうのはすごい。ミドルテンポの曲が多く、正直キラーチューンっぽいキャッチーな曲はないけどそれもこの時代を反映しているような気がする。

狂(KLUE) / GEZAN


プリミティブなビートと轟音ディストーションとハイトーンボイスが混ざり合う、GEZANの新譜。
特に「東京」は東京という街について嫌というほど考えたので何度聞いたかわからない。いつの日かライブハウスで見たいバンドナンバーワン。

Figure / Into It. Over It.


ジャケットワークがおしゃれなIInto It. Over Itの新作。
正しくエモを更新し続けるエヴァンの声は貴重。クラフト感のあるMVも素晴らしいですね。

Anyways / 環ROY


全曲の作詞作曲を自分で手がけたという意欲作。かなり散文的で実験的だった「なぎ」に比べ、子供の声をサンプリングするなどコロナ禍の日常をポジティブに反映している印象を受けました。同じ子供を持つ身としては、「おまえ守るだけ」というフレーズを繰り返す「Protect You」は呪文のように聞いてました。

Lives By The Sea / Gotch


Gotchの3枚目のソロアルバム。アジカンの音とは違い個人の趣味やリスナーとしての感度の高さがダイレクトに伝わるのがソロのいいところで、今回も同時代性を感じさせてくれる歌の数々が素晴らしく良かったです。

Between the Black and Gray / MONOEYES


ELLEが精力的な印象だった2019年もありましたが、MONOEYESでも日本語と英語がまざりあう変わらずのメロディセンスを聞かせてくれた。パンクロックは難しいことを考えずに歌えていいなと思う。
いつの日かライブハウスで。

The Avalanche / Owen

安定のowen様、マイク・キンセラの歌は常に美しくそこにある、そんな感情を抱かせる一枚。
遠景の固定カメラで撮られるMVのシリーズも継続されていていいですね。

HARVEST / LOSTAGE


これもコロナ禍に届けられた寄り添うような柔らかい歌の数々。
LOSTAGEといえば、のエッジーなディストーションギターはほとんどなく、アコギを中心にまとめ上げているので、歌の良さが際立っていたり若干の牧歌的な雰囲気も感じられたり、懐が深い。
百姓が育てた野菜を売るように音楽を売って暮らしていくことが出来るんじゃないかとblogで言っていたのでHARVESTと名付けられたのかな。
LOSTAGEの音楽はサブスクで聞けないけど、哲学があるのでそれが良いのです。
THROAT RECORDSには次奈良に行ったら必ずいく。

まとめ

コロナ禍の中でインナーに向いた曲が多かったように思います。
ライブハウスを救済するためのオンライン企画が次々に立ち上がり、それに参加するくらいしかできなかった。
ライブを見にいけたのもわずかに2回だけ。家にプロジェクター買おうかなと思うくらい。
今年こそは、野外でも着席でもいいので1つでも多く空間全体で空気の振動を感じたいものです。

一曲単位で良かったものは、↓のプレイリストに集約しています、よろしければ。
では。

2020−2021

年の暮れ、家族で館山に行った。
出産を控えていた我が家は、コロナがあろうがなかろうが年内はSTAY HOME期間なので、娘と妻にせめてもの労いを込めて。
コストパフォーマンスが良すぎることで有名なIT健保のホテル。
天井が高くダブルベッドが二つ置かれた広々としたオーシャンビューの部屋。
相場の4分の1くらいの値段で泊まれるその部屋に入ると、テラスから見える水平線の向こうに沈む夕日の閃光がぼくたちを包んだ。
奥さんはエステに行き、僕はYOUR SONG IS GOODのwavesをかけて、巨大なソファで息子にミルクをあげながら娘と暮れていく夕陽を見ていた。
その時間の穏やかな気持ちと空気感が、とても心地よかった。
そんな瞬間が今年どれくらいあっただろう。

2020年がもたらしたものは何だったのだろう。
そのことをずっと考えている。
ニューノーマルと言われるそれも、いったいどこまで戻るのだろう。
その答えは何年後に出るのだろうか。
この停滞が終わった時、答えは出ているはずだと信じたい。

職を変えた人、住む場所を変えた人、生活様式を変えた人、色んな決断をしていった人は周りにも多い。
僕はその人たちとは違って出産というイベントが最優先にあり、手軽にはそういう決断はできない立場にいる。
かと言って東京を出て田舎に住みたいとか、違う仕事をしたいとも思わなかったのはなんだったのだろう。

思想や理想ばかりが深くなり、アウトプットにつながらない日々。
リリースした物量でいえば、過去5年で最低の数字だ。
それは決して時流だけではなく、自分の力不足もあるはずで、変わらずにリリースを続けている人たちとの差が開く一方なのは目に見えて確か。
勿論それを黙ってみているわけではなく、主体的に動いてわずかな突破口も開くことができた。
ホームオフィスを作り、家族と一緒に過ごす中で自分のこれからを思案する期間としては十分だった。
来年はそれを正解にしていく流れを作り、種を撒いていきたい。
40代も視野に入っている今、時間はそこまでない。
例によってまた1つ歳を重ねたわけだけど、定期的に散文を書きなぐる癖があるのでこれからも書き続けるだろう。
なので、このブログも内容も装いも新たにすることをお約束します。

それでは今年もありがとうございました。
来年こそ一人でも多くの人に会えますように。
良い年末年始をお過ごしください。

カテゴリー: Days