BRAHMAN Tour 2021 -Slow Dance-

6/28 BRAHMAN Tour 2021 -Slow Dance- at Zepp Haneda

凄まじいタイポグラフィの映像で披露された新曲が終わり、客電が点く。
呆然とした中規制退場のアナウンスが聞こえ、その場で少し待ちトイレへ行き、外へ出ると暗い空港に着陸する飛行機が見えた。
足湯のできるデッキに上がり青くライトアップされた滑走路をぼんやり眺めながら、あぁとても良いものを見たという充実感に包まれながらしばらくそこから動けなかった。
コロナ禍のライブは終わった後、どこも店がやってない。そのまま電車に乗り込み、腹ペコで家へ帰り、駅前で買った牛丼をリビングで食べるのも、もう何度目だろう。ラーメン屋に寄って一杯飲みながら友人と感想と近況を語る時間が恋しい。

静のブラフマン、いったいどんなものなのだろう。その答えを見に、2時間早退できる有給をとり羽田イノベーションシティにあるZEPP HANEDAに向かった。
天空橋の駅を降り階段を登ると沢山の飛行機が見え、テンションが上がる。ドリンクはもちろんソフトドリンクのみなので、開演ギリギリまでみんな外で飲んでいるけど、中に入ると静かで幻想的な音楽が流れ、一定の緊張感があった。いつもの十字に区切られたマスの中で見るのかと思いきや、一階も全て座席がある。

10分遅れで4人が登場し、カムイピルマからスタートする。
ステージに張られた薄い幕の向こうに映像やライティングの演出と一体となってバンドの姿が見える。シルエットしか見えない白幕ではなく透明度の高い布で、映像との一体感がとても高いものだった。それがあまりにも綺麗だったので、もしやこのまま幕を開けないままやるのかなと思いながら4曲目の終夜が終わった。
突如、お馴染みのブルガリア民謡が流れ、オープニング映像が流れた。そこからブラフマンはじめます、という恒例の掛け声もなく、そのまま霹靂へ。フジロックを思わせる豪雨の映像の中で歌われたその映像の完成度に見惚れていると、中盤のディストーションギターを踏むところで雷が鳴り、幕を切り裂くように一気に幕が開いていくと思わずみんなが立ち上がった。その瞬間、張り詰めた緊張がほぐれたように涙を抑えることができなかった。あぁこの瞬間を僕は待っていたんだ。ずっと会えなかった人にやっと会えた。そんな感じだった。

全く話さないブラフマンのライブは10年ぶり以上だ。以前はそれが当たり前だったけど、震災以降解禁したMCがなかったのは、徹底的に静と向き合った結果を今表現しているのだから、お前らも静と向き合えと言われているようだった。

MVと同じ石巻の漁港の今を写したナミノウタゲ、夕焼けに照らされた福島の海の波打ち際で踊るダンサー、ライブハウスの写真だけで構成された映像など、曲によっていくつもの演出が変わり、時折CDよりbpmを落として演奏される曲もあった。
静のブラフマンと言いつつも、ただ遅い曲だけを選曲しているのではない。激情を吐き出すという、自分たちの一番得意な武器を奪われた制約の中でもなお、曲の中身潜り新しい何かを探し、思索を練り、違う側面を引き出して届ける。それに向き合った結果がこのライブに凝縮されていた。
前日にはA Forlorn Hopeが発売されて20周年だった。ファンになって22年も経つのにまだこんなにもクリエイティブな刺激と感動をもたらしてくれるなんて、その事にとても興奮した。

静粛の世界で 静かに声を殺して踊れ slow dance
と最後に披露された新曲は、全くslowではなかったことが、とても深い痕跡を心に残した。