20141127 DAY 7 – Mont Saint-Michel –

フランス西海岸、ノルマンディー地方南部のサン・マロ湾上に浮かぶ小島、モン・サン=ミシェルまでは、パリからは約360km、東京-名古屋くらいの距離。パリから往復のバスに乗って片道約4-5時間の距離にある。
この旅の一番の目的とも言っていい日、とても楽しみにしていたモン・サン=ミシェルへのバスツアー。
一日の約半分を移動に費やすことになり、日帰りだと滞在時間が短いので宿泊する人も多いようだ。

6時前に眠い目を叩き起こし、前日に用意しておいた荷物を持ってメトロへ飛び乗り、オペラ座近くのマイバスという旅行代理店の前に集合場所へ急ぐ。朝食と睡眠は移動中にとれば良いのだ。
まだうっすらとブルーに包まれた暗いパリの街を歩き、問題なく受付を済ませ集合場所に到着しバスに乗り込むと、やはり人気ツアーのようで、8割ほどの座席が埋まっていた。
事前に知っていたことだけど、モン・サン=ミシェル訪れるのはほとんどが日本人だそう。天空の城ラピュタや塔の上のラプンツェルの島のモデルとも言われ、あのビジュアルの惹きつける魅力は万国共通だと思っていただけに驚きである。

7時過ぎに出発して5分ほど、ちょうどコンコルド広場のセーヌ川の横の大通りに出ようとするあたりで、ドンっという衝撃でバスが止まった。バスの右折しようとしたバスの内側にバイクが衝突したようだ。自分はバスの右側に座っていたのでその音や衝撃がはっきりと伝わってきた。
おいおい、いきなり大丈夫かと思いつつ、幸いなことに軽い傷がついたくらいで20分~30分ほどで示談交渉が終わり、またバスが出発する。
この程度の事故はパリではよくあって、あとは保険会社に任せるので安心してくださいとのこと。
ガイドさんが、このバスは二人体制で運行されていてそれはフランスの法律で決められているなど、運行の安全面やパリの歴史についてもいろいろ解説してくれて、それを聞きながら朝ごはんを食べ高速道路に入る頃にはとりあえず眠ることにした。

バスの車内にはWi-fiもあるので、退屈な移動時間をバナナムーンゴールドのポッドキャストを聞いたりガイド本を読みながら過ごす。
車窓に映るのはひたすらまっすぐに伸びた道と森と田畑、その合間にポツンポツンと家があり時折IKEAが見えるくらい。


しかしその街路樹を見ていると、森の木にはマリモのような、丸い鳥の巣のような塊がいくつも見える。あまりにもその数が多いので気になって調べてみると、宿り木といって木に寄生している植物のようでフランスの郊外ではよく見かけられる光景だそうだ。確かに、何かの古い絵画で観たことあるような記憶がある。

ケルト神話ではヤドリギは「聖なる木」とされていて、悪霊、悪運を遠ざける言われているので、フランスでは新年を迎える時にヤドリギのリースを玄関の扉に飾る家もあるようだ。木から葉が落ちてもなお、寄生して存在するその不思議なその光景から、なんだか魔力のような神秘的なオーラを感じ取れる光景だった。

10時頃には休憩のためにオン・フルールという港町に到着。時間が押していたので30分くらいのわずかな時間しかなかったけど、港に小型船が停泊するその脇に並んだ家屋の愛らしさは本当に絵本の世界のようだ。印象派の画家たちの題材になったというのも頷ける。

昼前いよいよバスが高速道路を降り、畑の中の道を走っていくと時折海が見えるようになってきた。するとぼんやりと緑の畑の向こうに、マイケル・ケンナのあの写真のように、見覚えのあるシルエットが浮かび上がってきた。それはどんどんと近づいてきて、確信するとガイドさんが間も無く到着する旨を伝えてくれた。

空気が綺麗で、とても静かな場所にバスがとまる。まずは「ル ルレ サン ミッシェル」というホテルのレストランでのランチタイム。
このホテルはおそらく一番島に近い場所に建てられていて、大きな窓からは遮るものが何もなく悠然とした修道院の姿が見える。

ランチは、名物のオムレツが前菜でサーモンのムニエルとパン、これもフランス名物のシードルにデザート、というコース。
あんまり時間をかけて食べていると、見学時間が少なくなってしまうので、せわしなくふわふわのオムレツを堪能し、いよいよ島へ渡る。
(実はこのオムレツ、東京国際フォーラムに支店があって東京でもたべれるんですよ

島へは無料のシャトルバスで渡る。
ガイドさんの話によると、以前は陸続きで車で行けるようになっていたが、潮の満ち引きで周囲に土砂が溜まってしまうのが問題となっていて、そこでかつての姿のように島への道を取り壊し橋をかける工事が2009年から始まり、ようやく橋がこの年(2014年)に完成したばかりだそう。

おそらく景観の美観のために、2km手前までホテルや駐車場などの建物や人工物がないようになっているので、どこからでも空と水平線と島が綺麗に見える。ちなみに馬車でも渡れるようだが、バスの倍の時間がかかるので絶対に乗らないでくださいと言われていた。

高まる期待感を抑えながら10分弱でバスは入り口のかなり前で止まりそこから歩いて向かった。
空に二匹の獅子?が描いてある赤い旗が、静かにはためいている。

 

この島はもともとモン・トンブ(墓の山)と呼ばれ先住民のケルト人が信仰する聖地だった。モン・サン=ミシェルとは「聖ミカエル山」という意味で、708年、司教オベールが夢のなかで大天使ミカエルからお告げを受け、ここに小さな礼拝堂を作ったのがこの島の起源。

そして966年にノルマンディー公リシャール1世がベネディクト会の修道院を島に建て、これが増改築を重ねて13世紀にはほぼ現在のような形になった。中世以来、カトリックの聖地として多くの巡礼者を集めてきた。崩壊と修復を繰り返した歴史を見ていたかのように、尖った修道院の頂点にあるミカエルの像が今もなお、世界を見守っている。百年戦争時には要塞としても使われていたり、フランス革命後には監獄として歴史もあるように、確かに下から見上げると確かに要塞のようで、今も修復工事が繰り返されている。

帰りのバスの時間を確認して門をくぐり中に入ると、参道にはカフェやお土産やさんが並んでいて、その脇にポツンと教会があったり、中世の街にタイムスリップしたかのような、ドラクエのような街並みに気分がどんどんと上がってくるのを感じる。ぐるぐると螺旋状になっている坂を登り続け、いよいよ修道院の中に入る。

 

修行のための修道院というだけあり、中はかなり質素な造りでパリの教会のような、豪華な煌びやかさはあまりない。

主要部はゴシック様式だが、修復を繰り返しているので内部はゴシック様式やロマネスク様式、ルネッサンス様式などさまざまな中世の建築方式が混ざり合っていて、細部の装飾もとても面白い。

大階段や西のテラス、食堂、騎士の間、迎賓の間、中庭の回廊、城壁そして礼拝堂に刺す自然の光と建築の美しさと、ここで修行する修道士の姿を想像すると、その歴史の深さにハッとすることが何度もあった。

窓から外を見ていると、干上がったサン・マロ湾と雄大なノルマンディー地方の大地が見える。確かに俗世間から隔離されたここで修行をすれば、何かの悟りが開けそうな感じがする。



じっくりと見ていると時間はあっという間に過ぎていき集合時間が近づいてきたので、お土産屋さんでワッペンと名産の塩を買い、急いでバスに乗った。
ライトアップされた夜や潮の満ちた朝のモン・サン=ミシェルはもっと美しいのだろう。名残惜しいけど、不思議な達成感と満足感が胸に残った。
バスの中から見えなくなるまでずっとそのシルエットを見て、車内で泥のように眠る。

途中ガソリンスタンドに一箇所だけ寄り、パリに戻ったのは、すっかり夜も更けた21時前だった。
長距離移動もあり、お腹はペコペコ。この辺りはパリ初日に来た日本食の多い地域だったので、来々軒という中華料理屋さんへ
広東麺とチャーハンを食べる。冷えた体に町中華的なメニューがとにかくうまい。米も久しぶりだったし、何よりアツアツで染みる。

ちょうど時間が22時の点滅に間に合いそうだったので、急いで会計を済ませてコンコルド広場の近くのセーヌ川のほとりに腰掛けてエッフェル塔のシャンパンフラッシュを見た。セーヌ川に街のライトが反射してとても綺麗だった。なんでロマンチックな光景だろう。ハドソンリバー、テムズ川、隅田川、世界のどこにいても僕は川沿いの都市の風景が好きだ。
明日は最終日、夕方にはパリを出発するのこれが最後のシャンパンフラッシュになると思って、心に焼きけた。

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