20141128 DAY 8 – Montmartre –

2014 11/28 最終日

 

実は昨日からシャワーが出ない。
このまま帰国するまでにお湯が出なければ、日本の家に帰るまで風呂に入れないことになる。気温は毎日一桁なので流石に水で洗うのはためらう。
旅の最後に最悪の事態になるのは避けたいので、フロントにその意図を伝え、早朝のシャンゼリゼ通りに向かう。朝のシャンゼリゼ通りは、人も少なく綺麗な秋と冬の間の空気がすり抜けていた。


NIKEショップには何かの発売日なのか行列が出来ていて、DJがアップテンポのヒップホップを回していたので、少し様子を見ていると彼がMixCDを差し出してくれた。

わざわざ朝からシャンゼリゼへ来たのはラデュレで朝食を食べる為。
前もって決めていたパンペルデュと店員がお勧めのエッグベネディクトを注文。オレンジジュースを飲みながら貴族のようなラグジュアリーな内装の店内で、風呂に入っていない東洋人が絶品の朝食を食べる。とんでもなく美味いしテンションも爆上がりなのだけど、後にレシートを見て引くくらい、人生で一番高い朝食だった。

アパルトマンに戻ってもシャワーは治っておらず、日本に帰るまで風呂に入れないことが決定する。。。
仕方がないので震えながら体を濡れタオルで拭いて、真水で頭を洗う。旅の最後がこれかーっ。
まぁしょうがないけど水回りのインフラで日本に勝る国はないと思う。

部屋に出しっ放しだった荷物や着替え、お土産など荷物を片付けて、フロントにトランクを預けてチェックアウト。
飛行機までの時間はメトロでモンマルトルへ向かう。
モンマルトルはパリの北西部の18区、市内で一番高い丘の上にあるエリア。パリの下町と言われているけど、下町なのに丘の上にあるのもなんか不思議な感じだなーとも思う。芸術家が多く住んでいたと言われていて、映画アメリの舞台としても有名な地区。Phoenixもなんかのアルバムをこの辺りのスタジオで録音したといっていた気がする。

ブランシェ駅で降り、ムーラン・ルージュの横の道を上りアメリの舞台にもなっているカフェドドゥムーランを抜けて丘の上を目指した。
確かに可愛らしいお店でいっぱいだし、石畳の坂も風情がある。建物の合間からはパリの街並を見下ろすことができ、フォトジェニックなエリアだなと思う。ゴッホやピカソなど数数の芸術家が住んでいた街、というのもとても納得がいく。

昼時だったので、新宿や渋谷にも支店が2017年まであったゴントランシェリエでランチ、日本のお店よりもいささか質素な外観なのだけど、道ゆく人を眺めながら、サンドウィッチやパンをとても美味しくいただいた。
休む間も無く東側へ歩いて向かうと、ここに来る人のほとんどが目指すサクレ・クール寺院があった。


モスクのように上が丸くなっているのが特徴的な寺院の外観はなんとも愛らしい。下から見上げると青空と真っ白な建物の調和がとても綺麗だ。
寺院の前は、眼前にはパリの街一望でき、芝生でみんな思い思いの時間を過ごしている。

入り口に物乞いがいるのに戸惑いつつ寺院の中に入ると、また神聖な空気に包まれる。
鮮やかに描かれた天井の絵画やステンドグラスは細部までがすごく綺麗。教会の文化に普段触れていないけれど、それでも伝わるものが十分にあった。
中をひととおり見た後、上のドームへ上る階段も登ることができるので、6ユーロ払い、400段くらいの狭い階段をひたすら上った。
映画に出てきそうな本当に狭くて古くて閉じ込められそうな空間をひたすら登った先にはまた、ものすごい絶景が待っていた。

規制で高い建物がなく、100年を超えるパリの街並みの屋根のうねりが縦横無尽に延々と続いている。屋根をたどっていけばどこまでも行けそうだ。。いくつかの地点から放射状に広がったアベニュー。遠くに見える煙突から黙々と煙。それを見守る寺院のガーゴイルの彫刻。屋根の上で働いている職人さん。合間から見える木々。
そしてその真ん中に見えるエッフェル塔。反対側には一箇所だけ開発されたエリア、ラ・デファンスの巨大なビル群が見える。
静かなその風景を眺めているとこういう瞬間のために旅をしているんだなぁということをしみじみと感じた。他にほとんど人もいなかったし、とても静かな空気の中、この美観を守ることがパリ市の使命です。そんなことをこの美しい景色が語りかけているいるように感じた。
歴史が残っているということが、いかに都市としての哲学と秩序を守っているのかをまざまざと見せつけられたか感じがする。

東京にも江戸の文化は根付いているが、街並みはほぼ残っていない。木造で経年に耐えられないせいもあるし、地震が多く空襲で消失してしまった部分が大きい。なにせ歌舞伎座の上に巨大なオフィスビルを立てるような判断をしてしまうような国だ。
戦後復興の名の下に無計画にどんどんと自由に開発がされていった。そのごちゃ混ぜの感じが逆に固有の東京らしさとも言える景色を作ってきたのだけど、日本に古来からある引き算をベースにした侘び寂びという概念とは真逆であることは、日本を訪れるいろんなデザイナーが指摘している。
それが日本の面白さなのだろうとも思うけれども、歴史の重さにはやはり勝てないと思うしこんな美意識が当たり前に日常にあることがとても羨ましくもある。

坂を下り、A.P.C. SURPLUSをチラ見した後、メトロで16区へ移動。
この旅の最後を締めくくるのは、ピエール・ベルジェ財団()で行われているエディ・スリマンの写真展「SONIC」を見る。


ファッションデザイナーとしてはもちろん、フォトグラファーとしても超一流のキャリアを持ち、ミュージシャンとの親交も深い彼の作品は、ショーでは積極的に気鋭のインディーロックをBGMに使うなど音楽に関係する写真がとても多い。この展示でもポスターに使われているルー・リードを始めエイミーワインハウスなどの大御所からクリストファー・オーウェンスやTEMPLESなどの気鋭の若手までポートレートがずらっと並んでいる。いつもHEDI SLIMANE DIARYはチェックしているが、入り口で渡されたリストを見ながらこの数は流石に興奮を抑えられなかった。
平日だったこともあるのか、会場はほぼ貸切状態で写真を堪能することができた。もちろん写真は全てモノクロ。白い壁に黒い額装。黒一色空間の左右に延々と映し出されるスライドショーなどからも彼の美意識を全身で感じる時間だった。

最後にいくつかのお土産などの買い物を済ませ、アパルトマンにトランクを取りに行き、17時に空港へ向かう電車にのった。
19時にシャルル・ド・ゴール空港に到着。マクドナルドを少し食べて、21:00 パリ発東京行きの便に乗った。

いい女はべっ甲のメガネをかけている。みんなタバコ吸ってる。ギャラクシーが結構多い。メトロの白いタイルが素敵。カフェの間隔が狭すぎる。広告の金色のフレームがとてもかっこいい。誰もマスクなんかしていない。暖かい飲み物が貴重。石けんがいい匂いだからいつもより多めに手を洗う。
そんな断片的な思い出を振り返りながら、雲の上に出るまで美しいパリの夜景を上から見ていた。

リンドバーグが大西洋横断飛行をした時、「翼よ、あれがパリの灯だ!」と叫んだ景色はこんな感じだったのかとも思った。
帰ったら以前に見た、「パリ・ジュテーム」「ミッドナイト・イン・パリ」「パリ恋人たちの二日間」などの映画を観直したいという気持ちを抑えつつ、飛行機では当時まだ日本で未公開だったウディ・アレンの「マジック・イン・ムーンライト」を鑑賞。

間も無く東京に着くという頃、ちょうど夕暮れ時で、いつもの千葉県のゴルフ場群を過ぎると、眩い夕焼けが東京の街を照らしていた。
36時間風呂に入っていないことなど、とうに忘れるくらい、心は満足感でいっぱいだった。
またいつかこんな気持ちにさせてくれる旅ができるように、また東京で頑張ろうと強く誓った。

(※この旅行記は2020年8−9月に書いたものです。)

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